«前の日記(2008年02月16日) 最新 次の日記(2008年02月18日)» 編集

ema log


2008年02月17日 [長年日記]

_ [Book]東大教養囲碁講座―ゼロからわかりやすく

東大教養囲碁講座―ゼロからわかりやすく (光文社新書)(石倉 昇/梅沢 由香里/黒瀧 正憲/兵頭 俊夫)

結局レビューを書き損ねていたのですが、気晴らしに書いてみる。

「囲碁」というだけにとどまるにはもったいない、「学習法」および「教育法」に踏み込んだ本だと感じます。もちろん、二章以降を読めば最低限の知識が身につき、曲がりなりにも石を置くことができるようになる良書。

記載されている本書の最大の特徴は以下の3点。一点目はともかく、後ろ二つが素晴らしい。

  1. 「石埋め碁」で囲碁のルールに慣れる
  2. 「決め打ち碁」で、布石の考え方を身につけ、初心者でもすぐに終局まで打てるようにする
  3. 「囲碁の心得」の形で、言葉を積極的に使って上達をはかる

決め打ち碁

なかでも学習教材として興味深いのは「決め打ち碁」の手法。これは途中まで棋譜の通りに並べて、その後から実戦を開始するというもの。

優れた実戦の棋譜を碁盤上に並べて勉強するのが囲碁の最良の学習法のひとつであることはよく知られています。しかし、実際にそれをするのは上級者・有段者で、初心者の頃は、そんなことは思いもつかないのが普通です

[東大教養囲碁講座―ゼロからわかりやすく p.36より引用]

と書かれているように、初心者向けの本においてこの手法を用いているのは画期的なのではないだろうか?途中まで模範対局があり、その根拠が提示される。それだけでも十分に効用があるのだけれども

碁の勉強方法

(中略)

二つ目は、本書の「決め打ち碁」の途中までの要領で、プロの対局の棋譜を並べることです。

(中略)

ただし、「10局並べよう」と思ったとき、違う碁を10局ではなく、同じ碁を10回並べるようにしてください。並べ替えしているうちに、徐々に形を覚えます。また、疑問もわいてきますが、それが一つずつ解決するごとに、力がついていきます

[東大教養囲碁講座―ゼロからわかりやすく p.69より引用]

と書かれているように、繰り返し、同じ形をなぞることの重要性が秘められている。学習の基本は「意味を考えながら、真似る」ことなのだ。


囲碁の心得

非常に残念なことに

では、中学校から始めた場合は、プロになることはあきらめなければならないのでしょうか。残念ながら答えは「イエス」のようです。

(中略)

上達のためには、熱心に繰り返し練習することが必要ですが、勉強の仕方で上達の早さが違います。

(中略)

中学生以上の人が囲碁を学ぶときには、小学生が学ぶときのように、理屈抜きにひたすら打って試行錯誤で学ぶのではなく、囲碁の基本的な考え方を言葉を通じて学ぶのが、良いのではないかと思います。

[東大教養囲碁講座―ゼロからわかりやすく p.41より引用]

小学生と中学生で、人間の「学習」という行為の持つ意味合いは大きく変わってしまうようだ。このことは芸術界・スポーツ界においても数多く実証されているので、恐らくほぼ事実なのだろう。僕はもはや多くの分野で手遅れだ。

閑話休題。

では、「囲碁の心得」とはなんなのか?。身も蓋もない言い方をすれば、これは「HowToマニュアル」である。一例を挙げてみよう。

「入れてください」に対して「入れません」と打つ。

自分の領域に侵入する意図のある手を打たれたら、無視せず対応して、侵入を防ぐ手を打つ。

[東大教養囲碁講座―ゼロからわかりやすく p.41より引用]

これをマニュアルと言わずしてなんと呼べばいいのだろうか。

「試行錯誤によって経験を積み重ねる」よりも「マニュアル通りに行動し、そのうちにそれを卒業する」のが良いようなのだ。これは悲しいかな、実体験にも一致する。「正しい・間違っている」という教示が無ければ「学べない」のだ。実に嘆かわしい*1。日本でも最高峰の知識獲得能力を持つであろう東大生ですらそうなのだ。もちろん、東大生だからなのかもしれないが。

やはり、本書のように優れた HowTo 本は必要なのだ。

# 誰か僕に、対人スキルのHowTo本を教えてくださいw

本書の欠点

yowa さんの指摘されている通りに

この本を手に取る人は囲碁の入門書を期待してると思うのだけど、第一章のほとんど(40ページほど)が「(東大教養学部で実際に行われている)講座が、どういう経緯で始まって、各授業内容がどういう意図で行われているか」みたいな講師向けガイダンスっぽい内容に費やされている。

それ以降は初心者向けの講座内容(独学用にも使える)が始まるのだけど、「囲碁の入門書」を期待した人は、第一章で面食らって読むのを止めちゃうんじゃないか、と。オレも事前情報なしに本屋でたまたま見つけたんだったら、買わなかっただろうなあと思った。

[ [本] 届いた - xe-kdoo (2007-11-23)より引用]

という構成上の大きな問題点があるのは事実。でもそれを補って余りある良書だと感じた。シラバス的な内容を何故外せなかったのだろうか?

*1 小学生までは何故、教師なし学習で上手く行くのか??

_ [戯言]考えたこと

脈略もなく、自動書記に近い内容。


よく、理系科目はわかりにくいとされることが多いのだけれども、それも真似の不足ではないだろうか?本当に、十分に例題とその模範解答を真似ているのだろうか?証明略とされた、不適切な本のいかに多いことか。


プログラミングにおいても写経の重要性は高い。コピペやコードリーディングを繰り返し、書き方を真似て力がついていくのだと思う。文法書は数多くあれど、写経用の本ってのは必要なんじゃないだろうか。レシピブックを何故プログラミングの教育に用いないのか?「Rubyist Magazine 出張版 正しいRubyコードの書き方講座」のような本は何故少ないのか?。移植するとコードが理解できるってのも考えながら真似るからなんだろうなぁ。とか思った。単純すぎ?


「何か課題を与えて、それを解かせる」という方法は、一見最も優れた方法で、自力がつくようなイメージがあるのだが、それは間違いではないのだろうか。その前段階に、甘やかすかのように正解例を与え、道しるべを置く必要があるのでは?そして、それは高等教育においてでも例外ではないように感じた。物量作戦。そのような教材は果たして広く存在しているのだろうか?チュートリアルは重要なんだ。ボブじゃ、簡単すぎて無理だけど。道しるべがないと、どうして良いか分からなくなるのが普通なんだ。


テトリスにおいても、かんさんや、ANN さんが同じビデオを繰り返し何度も観ているという話をされていたことがある。僕自身、実践したことがあるのだけれどもその効果は絶大だ。もちろん、考えながらじゃないと意味がない。予測、修正、予測、修正の繰り返し。自分で盗まないと身につかない。

J.O. さんの「テトリス講座」という優れたサイトが存在する。体系的にテクニックが書かれていて、ここを繰り返し読めば必要なことがだいたい身につくようになっている。でも、最近まで、棋譜を並べることができなかった。その点においては少しは貢献できたんじゃないだろうか。でも、まだまだやれる余地は多数あるようと思う。チュートリアル的な何かが無いんだから、道しるべを立てないと。

本日のツッコミ(全3件) [ツッコミを入れる]
_ 研航 (2008年04月10日 13:02)

私も本の感想を書くブログを立ち上げていまして、emaさんと同じく、この本をアップしようと思っていました。<br>内容は梅沢由香里さん+石倉昇さんのほかのテキストをシンプルにまとめ、あたらしく?六路盤での指導を開発、実際の成果をちりばめているのが特徴でしょうか。<br>書こうとしていた内容は、欠点も含めてまったく同じです。ちょっと残念ですね。せめて巻末にこの章を回せばいいのに。<br>囲碁で学ぶ目的には、ヒトから見て(たとえば黒から見て白)どうとらえられるか、を考えることも入っていると思うのですが。教科書だと言われればそれまでです、けど。

_ ema (2008年04月10日 13:36)

どうも。<br><br>この本、いいですよねー。全くの素人(の大人)がコンピュータ相手に囲碁らしきゲームを繰り広げられるようになることは特筆すべき内容だとおもいます。<br><br>将棋なんかでも、なかなか「曲がりなりにも、打てるようになる」という本は少ないので、この本の知見を他にも生かせたらなぁと思います。

_ 研航 (2008年04月12日 14:30)

ほんとにいいですよね。実際、二人の講師の前の本(どちらもNHK出版)で、私は囲碁が打てるようになっています。<br>特に注目されている<br>「「決め打ち碁」で、布石の考え方を身につけ、初心者でもすぐに終局まで打てるようにする 」<br>のとおり、石倉昇さんの模範対局を10回並べたあたりから、囲碁の雰囲気、勝ち負けや攻防がわかるようになりました。<br>※私のブログも囲碁関係の記事もありますので、よかったら、ご参考ください。<br> 人生のイロハ修行ちゅう kenkoh.blog.so-net.ne.jp<br> 囲碁・英語・営業 kenkoh.at.webry.info